木村 駿
ロート製薬基礎研究開発部
素材・基盤技術グループ
再生医療研究と
ヘルスケア・美容研究の関係性
私たちロート製薬は、世界中の人々がさまざまなライフステージでイキイキと過ごせるように、
化粧品から再生医療まで分野を超えた研究開発を進めています。
特に、細胞の老化とそれに伴う組織の形と機能性の低下は、
美容上の悩みから活力を奪ったり、時には病気の原因となる重要な研究対象です。
再生医療の世界では、幹細胞が様々な疾患や創傷の治療に有用であることが報告されています。
これらの研究から明らかになった幹細胞の機能はヘルスケア、美容にも役立つと考えられることから、
幹細胞研究の成果の多面的な応用を目指しています。
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皮膚のハリ弾力と
クッション機能を支える
皮下組織
皮膚は表皮と真皮、皮下組織の3層からなります。
皮下脂肪とも呼ばれる皮下組織の多くは脂肪細胞で占められていて、
場所にもよりますが真皮と同じかそれ以上の厚みがあります。
皮下組織は外部の衝撃から内臓を守るクッションのような働きをしています。
一般的に、“加齢によって皮膚が薄くなった”と表現されることがあります。
実際に、老化すると表皮や真皮だけではなく顔面の皮下組織も減少することが報告されています※1。
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皮下組織の減少は
皮膚のハリ低下と
シワたるみの一因となる
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老化によって皮下組織が減少すると、顔の見た目にはどのような変化が起きるのでしょうか?
真皮と皮下組織の関係は、風船のゴムと中に入っている空気の関係性に似ています。
風船から空気が抜けると、ゴムはたるみ、シワができます。同様のことが皮膚でも起きます。
研究では、皮下組織の減少は皮膚の張力(ハリ)を低下させること※2
張力(ハリ)の低下はシワたるみの一因になること※3,※4がわかっています。
つまり、皮下組織の減少がハリ低下を通じてシワたるみにつながる可能性があると考えられ、
皮下組織の減少を防ぐことが大切
なのです。
老化による皮下組織の
減少を防ぐ、脂肪幹細胞研究
皮下組織の多くを占める脂肪細胞を作り出し維持しているのは「脂肪幹細胞」です※5。
老化によって脂肪幹細胞の増殖や分化する力が低下し、皮下組織が減少します※6。
皮下組織にある脂肪幹細胞は外部刺激の影響を受けにくいため、
老化にはストレスや炎症など内的要因が大きく影響します。
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この老化の要因の中で重要なのは酸化ストレスによる脂肪幹細胞の機能低下です。
私たちは、脂肪幹細胞の分化能力低下を防ぐ成分の探索評価を行い、絞り込みに成功。
独自のコンプレックスは、酸化ストレスにより低下する脂肪幹細胞の
脂肪細胞への分化能力低下を防ぎました。
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今後も再生医療研究を通じた老化のメカニズム解明と
新たなスキンケア・ヘルスケア技術の開発に努めてまいります。
引用文献
※1 Lucas M Boehm et. al. Plast Reconstr Surg. 2021 Feb 1;147(2):319-327.
※2 P Quatresooz et. al., Int J Cosmet Sci. 2006 Dec;28(6):389-95.
※3 Cormac Flynn et. al., J Biomech. 2010 Feb 10;43(3):442-8.
※4 Gérald E Piérard et. al., J Cosmet Dermatol. 2003 Jan;2(1):21-8.
※5 Casadei A et. al., J Biomed Biotechnol. 2012;2012:462543.
※6 Choudhery MS et. al., J Transl Med. 2014 Jan 7;12:8.